ついに完結!長編ドラマの裏側に壮絶なドラマ「秋パート・冬パート」

記念すべき第一回目のインタビューは「秋パート・冬パート」監督のスピカ23期河本考平さんです。「秋パート・冬パート」は、春夏秋冬通して1作品となる超大作の、後半2作品。春夏秋冬はスピカの名演者が多く揃った群像劇となっていて、多くの人が関わった作品となっています。そんな期待の作品について、制作中のびっくりするようなエピソードや、秋パート・冬パートの魅力などについて、監督にお聞きしました。

きっかけは、先輩の一言

──春夏秋冬全体を通して、どんな作品なのか教えてください。

なんて言うんですかね。春パートがあって、その後、夏と秋と冬ができたんですよ。

別に夏と秋と冬は撮るつもりがなかったんですね。

──春だけだったんですか。

ある先輩が、「いや、お前はやっぱさ、ドラマ無理だよ、人間ドラマ無理だね」って馬鹿にしてきたんです。

なんかイラっとして、だったらたまには書いてみようかと思って脚本を書いて。で、周りの人に見せたら撮ったらいいって言うので、春パートを撮りました。

まさかの大事故から生まれた夏秋冬

何を思ったのか、僕は当時、1ヶ月で1本映画を撮ろうとかいう計画を立てていて。最初に春パートを1ヶ月で撮り終えて、そこから1年で12ヶ月分、12本取ろうと思ってて。でも春パートの時点で失敗しました。

──何かあったんですか

撮影は1ヶ月でほぼ全部終わってたんです。終わってたんですけど。当時5月だったので、その後すぐに、東京48時間映画祭があったわけですよ。で、とある方が、48時間映画祭のデータを整理してる時に春パートのデータを一部消してしまって。やばいことに、 バックアップがなくて。僕はもう大焦りですよ。

──データが飛んだ!?大変じゃないですか

そう。1番の問題は、4つも上の先輩に出演してもらってたことだったんです。流石に、ちょっともう1回演ってくださいっていうのも忍びなくて。それで、なんとか残ったデータだけで誤魔化せないかと考えたんですよ。

──どうされたんですか?

ちょうどその時、僕は「街の上で」っていう、下北沢を舞台にした群像劇の映画にはまってて。 群像劇を撮りたいってずっと言っていました。

今泉力哉監督作品「街の上で」

春パートの映画、本当は春じゃなくて、男の方が主人公なんですけど、でも、「あ、春がいる。じゃあ夏と秋と冬を作ったら、四季を一周する群像劇にできる」と思ったんです。ちょうど、飛んじゃったデータがラストに近いシーンだったので、ラストの方で、メインキャラがだんだん春の方に移行する構成にして、春夏秋冬の方に展開していけば、いける、と思って。

それで、春夏秋冬でひとつの映画にすることにして、夏から先を作り始めました。

──なるほど名案。でも、データ消えたのは痛いですね

SSDのデータ飛ばされたの、僕はめちゃくちゃ恨んでたんです。なので、もう映画にぶち込んでやろうと思って。夏パートで、夏が学生の映画監督の映画のSDカードをスーツケースで踏み潰してぶっ壊したってシーンを撮ってます。

──そうなんですねw そしたら本当に、データ飛ばされた事故から生まれた映画ですね。

脚本通りに撮る、ということ

春パートを5月に撮った後、夏の合宿で10分くらいの夏パートを撮ったんですね。

ただ、その時点では、春夏秋冬は、僕の中では適当な映画の扱いで。僕は本当はSF映画が撮りたいので。

なんですけど、その後、秋に撮った秋パートがすごく上手く撮れて、評判も良くて。これはちゃんとやろうと思い直して、冬パートだけ真面目に脚本を書いた。僕とは思えない、完全に脚本を書きあげてから撮影するっていうスタイルで。

──いつもは撮影しながら、脚本を書き直してますもんね。

冬パート撮影の様子

もう人生で1回だけですよ。これまでは脚本はほとんど書かずに撮ってたので。春とかも、一応脚本を書いて撮ってるんすけど、途中で変わったりもしてて。あれだけの長尺を脚本を崩さずに撮ったのは初めてです。クランクインの前に、何度も書いて没にしてを繰り返して脚本を書きました。冬パート、最初は文化祭を舞台にする予定だったんですよ。

──そうなんですね!全然違う感じになってますね。

徹夜撮影から生まれた幻想的なラストシーン 〜秋〜

秋パート夜の撮影の様子

──制作中の、印象に残ってるエピソードを教えてください。

秋パートの撮影が、その日までに撮影を終えて、ロケ地に借りてた友達の家を空けないといけないことになってて。なので、残っていたシーンを夜中徹夜で撮り続けました。

それで、どうせ徹夜するんだったら、ラストシーンはGodox(人工照明)の光を使うんじゃなくて、朝に本当の朝日を使って撮るのがいいんじゃないかってなって。もっとなんか淡くしたかったから、本当の光にしました。

──確かにラストシーンの光、めっちゃ綺麗ですよね。

ただ、朝の4時とか5時くらいに撮影したので、 秋役の役者さんは本当に寝てたんじゃないかなと思います。

賛否両論!?階段シーン 〜秋〜

──ぜひ観てほしいシーンを教えてください

やっぱり、秋パートで秋が階段を上がるシーンを、飛ばさずに見てもらいたい。

──なるほど。秋パートは五月祭でも上映されてましたが、階段のシーンは、観た人の反応が二極化してますよね。すごくいいって言う人と、長すぎるっていう人とで。細部までじっくりみようと言うより、ゆったり眺めると浸れるようないいシーンですよね。

マネージャーの映り方で、人間関係を表現 〜冬〜

──秋冬の中でそのお気に入りの箇所とか、「ここを見てほしい」というポイントはありますか。

冬パートの1番初めのシーンで、助手席から後ろの客席を撮ってるシーンがあるんですが、その時の光がめっちゃ綺麗に冬の顔を照らしていて。演出的にはそこがポイントですね。

他に観てほしい点としては、最初、車の中で冬がマネージャーと喋ってるんですけど、その時マネージャーは画面に一切映ってない。次のドライブのシーンでは、鏡越しにマネージャーの目だけが見える。3回めの車のシーンでは、やっと後ろから直接座ってるマネージャーが映る。最後のドライブシーンで、初めてマネージャーが横から映されて、顔が見えるようになる。マネージャーがどれくらい映っているかで、人間関係を演出してます。そこの演出が難しくて、冬パートのドライブのシーンは、撮った映像の8割ぐらい没になってて。

──マネージャーがどれくらい映っているのかに注目してみてみると、面白いかもしれないですね。

春夏秋冬、単体でも楽しめる

──春夏秋冬を通して、1番こだわったことを教えてください。

どの作品も、最後はハッピーエンドにしようってことです。夏だけちょっとハッピーエンドかが怪しいんですけど、 夏パートは冬パートとつながってて、冬まで見るとハッピーエンドです。春と秋は単体で完結もしていて、それぞれハッピーエンドになってます。

──なるほど!春夏秋冬で1作品でも、秋は単体で十分楽しめそうですね!

五月祭に夏をみてもやっとしてる方には、ぜひ冬パートを見ていただきたいです。

今後の展望

──今後の展望を教えてください。

いや、やっぱり、1月から12月の映画を撮ろうかなと。

──はいw あれ、結局、春夏秋冬って制作どれくらいかけたんでしたっけ

1年半かけました。

──1年半かかってますね。

はいw

──頑張ってください!

河本考平

スピカ1895の23期メンバー。過去監督作品に、「夜風」「春」「夏」「花火」「2万パーセントの夜」などがあり、2023年度東京48時間映画祭では「蠍の日、僕は出会った、私の心のジャックブラウンに、」にて審査員特別賞を受賞。

独自の世界観・宇宙観で、観客を引き込む映画を撮影している。

過去作品リンク

「蠍の日、僕は出会った、私の心のジャックブラウンに、」

2万パーセントの夜

「花火」