全部大事なこと。でも、「戯言」

11回目は、「戯言」監督の冨田幸杜さんです。普段は衣装で活躍されている監督が、綺麗な映像に込められた思いをお聞きしました。

正反対な2人のキャラクター

──「戯言」はどんな作品ですか?

自分が生まれてきた理由がわからない人とか、今生きるのが辛いなっていう人に向けた映画かもしれないです。生きづらさを感じてしまう世の中を生きる人々に伝えたい映画でして。

ココロちゃんとヒカリちゃんっていう自殺願望を持ってる2人の少女の話です。

2人ともそれぞれ、最初死のうと思って海に向かったんです。そしたら、たまたまクラスメイトのココロとヒカリが鉢合わせて、そこからストーリーが始まる。2人とも、死にたいって思ってるんですけど、それをお互い言わないで、どうでもいい会話を続けてくんですね。

──2人はどういうキャラクターなんですか?

ココロちゃんは、いわゆる陽キャみたいな、元気いっぱいなクラスの中心人物で、笑顔で闇を見せない女の子。ヒカリちゃんはいつも1人ぼっちでいて、人が嫌いな女の子。でも実は、お互い本当は真逆のこと思ってて

めちゃくちゃ陽キャで誰とでも仲良く見える子って、本当はめっちゃ1人ぼっちで、本当に思ってることを言えない。そんな感じの子がココロちゃん。ヒカリちゃんは誰とも戯れない強さを持ってるけど、本当はみんなのことが好きだから、誰も大切にできないっていうか、誰とも一緒にいれない。

──正反対な2人なんですね

そう、お互いすごい反対。

だから、全然仲良くなれないなって思ってたけど、話すうちにどんどん2人は仲良くなっていくんですよ。最終的にココロちゃんは、自分とは間反対なヒカリちゃんに心を開けた。初めて他者に、本音『ひとりぼっちが寂しい』と伝えることができたけれど、そんなかけがえのない唯一の特別な友達を失ってしまう怖さから、最終的に別れてしまうっていう結論。

でも、ヒカリちゃんは、ココロちゃんから強さを学んで、より一層1人でたくましく生きていこうって覚悟した。ココロちゃんも、不安を抱えながら生きていくけど、何か1歩前進できたのかな、みたいな。決してバッドエンドではないんですけど、お互いが重ならないっていうのがすごいポイントだと思います。

撮影の様子

1人で生きる強さ

──「戯言」にこめた思いを教えて下さい

そうですね。2人のキャラクターのうち、ココロちゃんの自我は完全に私で、ヒカリちゃんはちょっと世間の風潮風にして、風潮と私を対比するように書きました。

最後にお互いが別れるっていう結末にしたのは、好きな映画の影響とか、自分の思想の影響だと思ってて。私は、結局人間みんな1人だと思ってるんですよ。私は私の人生を生きてくし、みんなはみんなの人生を生きてくっていうのを根本に入れてて。

例えば結婚しても、子供作っても、彼氏ができても、友達、親友ができても、みんな1人だなって思うんですよ。みんな一緒に生きる時間は長いけど、結局1人でいる時間は絶対あるじゃないですか。だから、みんなで生きる強さも必要だけど、1人で生きる強さを持ってほしいっていうか。そういう意味を込めたエンドっていうか、私はそういう感じが好きですね。

──タイトルの意味を教えてください。

私の独り言をすごい聞かせてる映画だけど、私たちがすごく大事って思ってることって、世界から見たらどうでもいいことなんだなっていう。世界中、誰しもが戯言を抱えて生きているけれど。でも、誰かにとっては意味のあることなんだよ、みたいな。みんな1人1人が持ってる意味のあることが『どうでもいい』って言われるっていうイライラも込めました。どうでもよくねえけど、戯言なんだよね。ちょっと世間のシビアさみたいなのも入れた嫌味っぽいタイトルにしました。

──じゃあ、戯言というより、『戯言』みたいな感じですね。

そう。そうかも。本当に戯言じゃないよ、全部大事なこと。だけど、戯言なんですよ。

──好きな映画や参考にした映画があれば教えて下さい

「WALKABOUT」が好きで。ストーリー展開が似てしまいました。

女子高生が砂漠で遭難して移住民の男の子と出会い仲良くなるんですけど、文化の違いとか価値観の違いから、すれ違っちゃって、途中で別れていく。その後、大人になった時に遭難した日のことを思い出す、みたいな流れなんですけど、そういう一期一会の出会いが運命的だなって思って人生観を変えたっていうか、その、響かせたみたいな感じの出会いがいいなって思って。

それはすごく、心に残ってる映画で、この映画の影響はあるかもしれないですね。

海辺での綺麗な映像

──この作品を撮ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

きっかけは色々あるんですけど、思春期の活動みたいな感じ。脚本執筆当時、19歳の私の今までの恋愛失敗談は性的なトラブルが重なっていることが多くて。それで、落ち込んで考えすぎちゃった感じです。私この先誰と恋愛するんだろうとか、子供作れるのかなとか、その時すごい生理中ですごいムカムカしてて、性的なナイーブなことを人に相談できないムカムカもあって。

で、撮りたかった映画も撮ることに集中できなくなって。それは自分が脚本描けなかったからなんですけど、そんな自分の情けなさにムカついて心を取り乱した時に、大学のお世話になっている恩師から短編映画を撮ればいいんだよって言われて。じゃあとりあえず学生会館で5分ぐらいの映画撮るかって思って、で、今思ってる不満とかを、ちょっとダークな5分ぐらいの映画作ろうかなって書き始めたんです。でも、ひたすらにムカつくなって思って書いてたらめちゃくちゃ長くなっちゃって。気づいたら50分ぐらいになってたんですけど、この映画を撮ることにしました。

──最初は学生会館だけの予定だったんですか

先輩のKさんに見せたら、学生会館じゃつまんないから、いろんな場所に移動してけばいいんだよみたいに言われて。画で表現する映画撮ろうぜ、ざんしんな感じになって。

とりあえずわけわかんないまま海行ってみたら、意外と脚本にあってて。海のこの生命力の強い感じと、海から逃げ出す女の子たちの物語にしようってことになりました。

──それで海を撮ることにしたんですね。「戯言」は海をはじめ映像が綺麗ですよね

画はめっちゃ綺麗です。「戯言」。本当に綺麗です。ロケハン2回行ってるんで。1回は役者のヒカリ役の人と行って。もう一回は、実際の機材持ってカメラの人とロケハンして、コンテもそこで仕上げました。その後リハーサルもしてから本番とってるんで、もう画はめちゃくちゃ考えてますね。

海辺での撮影

お気に入りのセリフを

──見てほしいポイントを教えて下さい。

見てほしいポイントは、台詞の美しさ。

私が殴り書きをしていった剥き出しの戯言。

一つ一つの台詞が生命力に溢れていて、美しい所です。

全部のセリフから、あなたのお気に入りのセリフを1つ汲み取ってほしい。

映画の全部がポエム帳になってて、1つ1つのセリフに何か汲み取れるものがあるから、きっと何か1つ共感するものがあるんじゃないかなって。だから、そこから汲み取って、その1つの言葉でなんか寂しさを埋めてほしいっていうか。自分が1人でも生きていけるんだっていう強さを持ってほしいかな。

冨田幸杜

スピカ1895の25期メンバー。過去監督作に、「Be Romantic」「曖昧vivid⭐︎」がある。不完全な人の心に温もりを伝える創作者を志している。