4回目のインタビューは、東京48時間映画祭にて審査員特別賞を受賞された、「奇天列回路」監督の佐藤由和さんです。
スイッチを押してから電気がつくまでに起きることを映像化したコメディ作品。その裏側で起きていた、愉快で不思議なエピソードをお聞きしました!ぜひ笑ってください。
審査員特別賞
──「奇天列回路」は今年の東京48時間映画祭で受賞されてる作品ですね。
そうですね。審査員特別賞をいただきまして。あと、監督賞、学生映画賞、編集賞、観客賞もノミネートされてました。ノミネート総なめ、ではないですけど、1割5分なめぐらいにしてはいますね。僕自身、こんなのがウケることもあるんだっていう驚きを持ってありがたく受け取りました。
電気がつくまでに
──タイトルはどういう意味なんですか?
タイトルは、直列回路、並列回路、奇想天外な経路をたどる回路「奇天列回路」です。
──奇想天外な回路!どんな作品ですか?
毎回言うのは、電気をつけるだけの話。電気をつけるまでに、いろんな人が関わってるよっていう話ですね。
──なるほど、人が関わってる
社会でもそうじゃないですか。自販機のボタン押したら飲み物が出てくると思ったら、そこには飲み物を補充してる人とか、飲み物のパッケージを考えている人がいるわけで。それが自販機の中だけで全て完結していたらどうなるのか、みたいな映画ですかね。
──じゃあ電気がつくまでの間にいる人たちを映画にした感じなんですね
そうそう、今適当に考えて喋りましたけど。
──この作品を撮ろうと思ったきっかけを教えてください
企画を立てる段階で思ってたのは、シャンタルアケルマンの「一晩中」みたいなのが撮りたいなって考えてて。あんまり関連してない断片をいっぱい繋げてるのに、なんでか映画になってるよね、みたいな。
で、48時間映画祭のジャンルのお題が推理ものだったので、変な野暮な推理をいっぱいしてしまう探偵、みたいなところから連想して、最終的な形になったかな。

「一晩中」
油揚げ
──この作品の核となる想いを教えてください。
何かあるとすれば、やっぱり笑ってほしいっていうのだけかな。面白いと思うやつを作りたい。いい映画はいっぱいありますけど、腹の底から笑える映画がないから、ちょっと自分でやろうっていう野心があるみたいな風を装ってます。
──監督の思う、この映画で一番面白いシーンはどこですか。
油揚げから電流が流れるところがもう1番面白いですw
──油揚げ…まあじゃあそこを注目していただいて

突っ込みながら観て欲しい作品
──観る時に注目して欲しいところや、ポイントを教えてください
そうですね。因果がないところに因果をつける、みたいな仕組みをはっきり言及してるわけではないので、それを理解しておけば、観やすく集中できると思います。
──なるほど、因果はあまり考えずに、楽しんだらいいよって感じですか。
そうやし、あと、セリフを聞いて、「なるほどな」「今言ったことおかしいぞ」みたいに自分で突っ込みながら見ていただけたら笑えるかも。
変な格好の撮影現場
──制作中の苦労を教えてください。
スピカのチームでは、それぞれスタッフが企画出して、それで投票みたいなんでどれを撮るか決めていくんですけど。選ばれなかった人の企画の分の責任もやっぱ負ってるから、企画段階で選ばれてから脚本ができるまでの時間は辛かったです。割と企画自体が骨組みみたいな状態だったから、面白いのが出るかどうか、その日の自分の調子がいいかどうかにかかってたので、そこは1番ヒリヒリしました。
──それは48時間ならではのヒリヒリ感ですね
あとは、やっぱり役者がいい演技をすると、それがもう面白すぎて、僕が笑っちゃってNGになるっていうのが、1番撮影進行上の問題になってました。せっかくいい演技をこう無駄にしてるっていうのはすごい責任を感じましたね。
──監督が笑ったからNGってあんまり聞かないですねw
撮影中にもうひとつ大変だったのが、道路でゲリラで撮影してた時に、「うちの前やけど何やってんの。」っていう人が来て。で、その、「今、 学生映画の撮影やってて」って説明したんですけど、役者さんに変な格好で来てって言ってたせいで、その場にいるみんなの格好が変すぎて、あんまり説得力がないっていうのは、ちょっと怖かったです。
──変な格好w
ロングコートに半ズボンみたいな人がおるから、絶対まともな人ではないなっていう印象を与えちゃうなって。一生懸命その変な格好の人隠して、結局、快く撮影許可いただきました。

油揚げを食べるとくしゃみが止まらなくなる
──制作中の一番面白かったエピソードを教えてください。
1番面白かったエピソードは、主人公が道に落ちてる油揚げを拾って食べて、前から来た人の持ってるゴミ袋に嗚咽するっていうシーンで、主人公やってくれてた人が、撮影した後に、なぜかくしゃみが止まらなくなって。
──くしゃみ!
道に落ちてる油揚げを食べて嗚咽したら、くしゃみが止まらなくなるんやっていう、そこになんか脚本を超えた謎の因果を見出したことが面白かったですね。「事実は小説より奇なり」っていう、今回の作品を象徴する出来事やったなって思います。
寝てた自分と入れ替わる
──他に印象に残ってるエピソードがあれば教えてください
48時間映画祭は、金曜夕方から日曜の夕方まで、48時間以内に企画から撮影、編集提出まで一気にやり遂げるっていう映画祭で。だから監督とかになると、とりあえず撮影が終わるまでは寝られないんです。そういう状況にも関わらず、金曜日の朝に早起きして映画を観に行っちゃって。結局撮影が終わるまでの時点で勝手に30時間ぐらい起きてるっていう。それで、アドレナリンだけで立ってるみたいな状態やったけど、 心配さしたらあかんから、「寝たよ」って言い張ってました。明らかにスケジュール見たら寝てないけど、「今寝てた自分と入れ替わってたよ」みたいなので、みんなを説得させてましたね。
──無理ありますねw
これが働き方改革。徹夜っていう状況に自分が慣れてなくて、みんなに心配されるっていうのがすごく楽しくてずっとやってました。
あと、撮影が順調に終わりすぎて、史上初48時間内で打ち上げまで終わるっていうのは印象的なエピソードですね。普通は提出まであと1時間しかない!あと30分!みたいな状況で編集して、締め切り1分前とかギリギリで提出する感じなんですけど、その3つぐらい先の打ち上げまで終わっちゃったっていう。あと何やんの。みたいな状況になってた。
──確かにそれはレアケース。
もう1本撮ろうとか言ってました。
何もしない演技と、杜撰伝言者
──この映画で、ぜひ注目して観てほしいポイントを教えてください。
2つあるんですけど、
1つ目は、映画の中に、同棲してる2人が出てくるんですけど、そのうちの1人に、「もう片方が喋りかけてくるまで何もしないでください」ってお願いしたんですよ。
普通はスマホとかテレビとか見てたりするけど、そういうのもしないで、何もしないで過ごすって演技をしてもらって。それはちょっと注目して、どうやって何もしなかったのか、何もしないとは何かっていうところを観て欲しいです。
──何もしないっていう演技の指示は難しいですね。
2つめは、さっきの2人が、片方がゴミ捨て場に降りてあるものを探すんですけど、見つからなくて、4階のベランダにいるもう1人と、「言われてたものなかったわ」「本当に?」みたいな会話をするんですけど、離れすぎててよく聞こえないっていうシーンがあって。そこに、その会話を伝言してくれる人が出てくるんですけど、その一連の会話はすごく気に入ってます。
焼きたて映画を駒場祭に
──今後撮りたい映画を教えてください。
1時間以上の長編映画を撮りたいなと思ってます。あとは、11月21日にも映画を撮って、そのまま焼きたてで22日、23日に上映します。
──焼きたての映画を駒場祭にお届けすると。
それも見に来ていただけたら嬉しいです。(2024年駒場祭にて上映。五月祭でも上映予定)
佐藤由和

スピカ1895の24期メンバー。過去作に「猫マン」「あなたがおとした私」「栗の木」などがある。
本作「奇天列回路」にて、2024年度東京48時間映画祭にて審査員特別賞を受賞、他多数ノミネート。
自分が腹の底から笑える映画を追求し、100人中15人くらいがファンになるような作品を撮っている。
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